تسجيل الدخول「最初からそう言っていたよね」
「あなたは大人だし、利害関係も一致しています。誠実なお人柄も素敵だと思いますし、私を大切にしてくれるでしょう。きっと、穏やかに生きられると思います」
「随分褒めてくれるね」
「でも、そんな理由で婚約しようとしていたんです。最低ですよね」
「最低ではないよ」
直之が静かに答えた。
「誰だって逃げることだってある」
「でも、それで直之さんを利用していい理由にはならない」
瑠理子は真正面から彼を見る。
「ごめんなさい」 直之は長く息を吐いた。そして。
「僕も謝らないといけない」
「え?」
「あの配信の件で、結果的に君を傷つけることになった」
「それは直之さんのせいじゃ……」
それから音声ファイルも直之に転送し、自分たちでもできる調査を行った。 二日後。一郎の退院が決まった。「こんなに早く退院して大丈夫なの?」「医者がいいと言っているんだ」「でも」「瑠理子は心配性になったな」「誰のせいよ」 一郎が苦笑する。 額にはまだ小さなガーゼが貼られ、腕にも包帯が巻かれている。それでも大事に至らなかったことだけが救いだった。「一郎さん」 病室へ淳が入ってきた。「荷物、持ちます」「いや、それくらい自分で」「怪我人は黙ってください」「君まで瑠理子みたいなことを言うのか」「恋人なので似てきたんですかね」「ちょっと淳!」 思わず叫んだ。 一郎が目を丸くする。「……恋人?」「あ」 淳が固まった。「お前たち恋人とはどういうことだ?」「違うのっ、これは……」「違わないでしょう」「淳!」 一郎は二人を交互に見て、しばらく黙ったあとに笑った。「まあいい」「え?」「今はな」 意味深だった。「詳しくは家へ帰ってから聞こう」「お父様!」「逃げるなよ」「……はい」 瑠理子は顔を赤くした。 その隣で淳は少し嬉しそうだった。 このまま事件の真相を暴き、この幸せが続くと信じていたのに―― ※ 三人は病院を出た。 迎えの車は駐車場の向こうに停まっている。「お父様、ゆっくり歩いて」「大丈夫だ」「その台詞は禁
その日の夕方。 瑠理子と淳は、義昭夫妻の荷物が残されているトランクルームへ向かった。「ここです」 淳が鍵を開ける。中には段ボール箱が十数個、整然と積まれていた。「思ってたより多いわね」「母が物を捨てられない人だったので」「そうなの?」「父は逆です。何でも捨てます」「ふふ。正反対だったのね」「よく喧嘩してましたよ。母が取っておいた空き箱を父が勝手に捨てたとか」 懐かしそうに笑う淳を見て、瑠理子の胸が締めつけられた。 こんな話を、前世では聞いたことがなかった。 淳が復讐に囚われる前は、彼にもごく普通の幸せな家族の時間があったのだ。 それを知ろうとも、聞こうともしなかった。そんな女だから、愛されなかったのだ。 今世こそ間違えず、今度こそ淳に寄り添いたい。「探しましょう」「うん」 二人で箱を開けていく。 アルバム、衣類、本、年賀状、古い書類など――ひとつずつ見ていくが、証拠になるようなものはなかなか見つからない。「ないですね……」「まだ箱あるわよ」「瑠理子、疲れてません?」「誰のために来てると思ってるの」「俺のため?」「そうよ」 即答すると、淳が少し嬉しそうに笑った。「じゃあ頑張ります」「現金ね」 さらに三箱、四箱と確認するが、なにも見つからない。「あ」 次の箱を探していた淳の手が止まった。「何?」「これ……父の鞄です」 黒い革のビジネスバッグ。「よく使ってた?」「はい。会社に持っていってました」 淳がファスナーを開ける。 中には古い手
「寝てなきゃだめじゃない!」「私は大丈夫だ。それより話をしたい」 一郎の顔はまだ青白いうえ、額には包帯が巻かれている。けれど、目はしっかりしていた。「義昭君が脅されていたかもしれないという話だ」「お父様……」 一郎は淳を見る。「淳君、すまなかった」「え?」「私は、義昭君の異変に気づけなかった」 一郎が唇を噛む。「あれだけ助けを求めていたのに」「一郎さんのせいじゃありません」「いや」 一郎は首を振った。「義昭君は私を信用して会いに来たてくれたんだ。それなのに私は、深く聞こうとしなかった。彼のSOSに気づけなかったんだ」 申し訳ない、と項垂れる一郎を見て、淳は声をかけた。「一郎さん、顔を上げてください。今から一緒に見つけましょう。父が何を知ったのか、誰に脅されたのか、そのすべてを」「……ああ」 一郎は強く頷いた。「私も協力する」 瑠理子は二人を見る。 前世では憎み合った二人。淳と父。父は淳に追い詰められ、死んだ。 それが今、同じ目的のために並んでいる。未来が確かに変わっていると思えた。 ※ その日の午後。海原グループの過去の社内記録を確認していた直之から、再び連絡が入った。『見つかった』「何が見つかったの?」『義昭さんの過年度資料閲覧申請だ』「…&hell
一郎はそのまま救急車で病院へ運ばれた。頭部を強く打っていたため検査が行われたが、幸い命に別状はなく、脳震盪と腕の裂傷で済んだ。「よかった……」 医師の説明を聞き、瑠理子はようやく力を抜いた。「今日は念のため入院してもらいます」「はい。お願いします」 病室へ移された一郎を確認してから、瑠理子たちはすぐに次の行動へ移った。 直之が手配した専門業者と警察が海原邸へ入り、彼の部屋や書斎を中心に調べた。 そして翌朝。予想は的中した。「見つかった?」 病院の廊下で、瑠理子が直之の電話を取る。淳とふたりで父の様子を見に来たところだった。隅の電話を受けてもいいスペースまで移動した。『ああ』「どこに?」『一郎さんの自室だ。飾り棚の裏に小型の盗聴器が仕掛けられていた』「……!」 やはりそうだった。 父と瑠理子が話した内容は、誰かに聞かれていたのだ!『しかも、かなり前から設置されていた可能性が高い』「そんな……」『家へ出入りした業者や使用人については、警察が調べている』「お願い」『それと、もうひとつわかった』「何?」『昨日届いたファックスだよ』 瑠理子の表情が変わる。「手帳?」『そう』「何か書いてあったの?」『義昭さんと会った日の記録だけじゃない。その数日前にも、義昭さんに関するメモが残ってる』「読み上げて」 直之が
それから三十分後。一郎は書斎で昔の資料を読み返していた。 家の中は静かだった。使用人の多くは別棟におり、夜間の警備も敷地の外周が中心だ。 だから、一郎は気づかなかった。裏手のサービス用出入口から一人の男が入ったことに。 男は帽子を深く被り、作業員のような服を着ていた。 手には複製された通用口の鍵。 廊下を進むのに、迷いがない。 最初から書斎の場所を知っている。 カチャ。 一郎が顔を上げた。「誰だ?」 扉が僅かに開く。「……?」 立ち上がった瞬間、男が一気に中へ入ってきた。「何者だ!」 一郎が叫ぶが男は答えない。「待て!」 一郎が腕を掴むが、男は振り払う。一郎の傍にあった手帳に手を伸ばし、男が手帳を掴む。 それに気づいた一郎も手帳を離さない。「渡さん!」 互いに引っ張り合うが、次の瞬間、男が一郎の胸を強く突き飛ばした。「うっ……!」 一郎の身体がよろめく。 背後には低いガラス製のテーブル。 避けようとしたが間に合わない。 ガシャン!! 派手な音と共に一郎が倒れた。「……っ」 割れたガラスで腕を切る。 額も床へ強く打ったため、視界が揺れる。「待て……!」 一郎は男の足首を掴んだ。 男が振り返る。 一瞬、殺意のようなものが宿るが、さすがに殺しはまずいと思ったのか、男は一郎の手を蹴り払うだけに留めた。「ぐっ……!」 手帳を掴んで、そのまま
「お父様」 瑠理子はスマートフォンを握り直した。「今、話してくれたことって、なにか証拠には残っていないの? メモとか、手帳とか」 なにかしらの証拠が残っていると、辿りやすいのだが……。『証拠になるかはわからないが、当時のことを書いた手帳ならあるぞ』「えっ!?」 まさか証拠になるものを父が持っているとは思わなかった!「その手帳、今どこにあるの?」『書斎だ。目の前にある』「絶対にそこから動かさないで」『瑠理子?』「それから」 瑠理子は直之を見る。 直之もすぐに意図を察したらしく、頷いた。「手帳の、義昭さんについて書かれているページ。前後も含めて何ページか、今すぐ直之さんのところへ送って」『送る?』「FAXでもいい。写真でもいいわ。とにかく原本以外の形で残して欲しいの」『そこまでしなくても』「お願い!」 思った以上に強い声が出た。電話の向こうで、一郎が黙る。「今、私たちが調べていることが真実に繋がっているなら、その手帳を、誰かが奪う可能性がある」『……』「お父様、帰ったら詳しく話そうと思っていたのですが、淳がお父様のことで脅されて、一人で港の倉庫に来いと呼び出しをされたのです」『なにっ!?』「一郎さん。僕の方から詳しく話します。実は――」 話がわかるように、一郎に簡単に状況を説明した。父が犯人の可能性があると思っていたが、もうそんな可能性はないと判断し、瑠理子は語った。それを淳がバトンタッチで代わってくれた。 淳は信じてくれたのだ。一郎が、義昭を――淳の父、そして彼の母を殺した犯人ではないということに。『そんなことが……そうか、わかった。今、瑠理子に頼まれたこと







